2024.11.3
あの日の第0会議室:従来の常識を捨てることで起きたコンビニATM革命
皆さん、こんにちは!セブン銀行 STORY of PURPOSE編集部です。
1990年代、まだコンビニにATMがなかった時代、24時間365日開いているコンビニにATMを置くという前代未聞の事業を立ち上げたセブン銀行。コンビニATMが普及するまでの道のりについて、初代代表取締役社長の安斎に話を聞きました。
目次
「成り立たない」と言われたコンビニATMへの挑戦
安斎 隆 経歴
大学卒業後、日本銀行入行。日本銀行理事、日本長期信用銀行頭取を歴任後、2001年アイワイバンク銀行(現・セブン銀行)代表取締役社長就任。
現在はセブン銀行特別顧問、東洋大学理事長。
―コンビニにATMを設置することの必要性は感じていましたか?
安斎:もともと、コンビニで「お金が足りないから、銀行で下ろして来る」とお客さまが店を出てしまうことが多くあり、セブン&アイホールディングスグループの経営陣がATM設置のニーズを感じておりました。
ATMがあれば買い物もスムーズですし、いつでも気軽に利用できるので、私自身も「実現できれば絶対にお客さまに喜んでいただける」と感じていました。
―前代未聞の挑戦だったと思いますが、周囲からの反発は無かったのでしょうか?
安斎:コンビニATMの必要性を感じている方は多く、ある程度理解はありましたね。当時は、銀行以外にATMがほぼない時代。銀行が閉まる直前に駆け込んだり、数少ないATMに長蛇の列ができ、20分以上待ったりすることも当たり前でした。誰もがそういう光景を見ていたので、構想自体には賛同する方も多かったのです。
ただ、ATMの手数料収入を収益の柱にするという事業については、「成り立たないからやめた方がいい」と言われていました。事業として「うまくいかない」という方が圧倒的でしたね。
それでも、お客さまが望むことを叶えて「成り立たせる」のが私の役目だと思い、山のようにある課題に1つずつ諦めずに取り組んでいきました。
2001年ATMサービス開始セレモニー
「超安全」で「止まらないATM」へのこだわり
―コンビニにATMを設置するにあたり、どのような課題がありましたか?
安斎:まず絶対に必要だと考えたのは、「超安全」で「止まらないATM」を作ることです。コンビニには銀行員がいませんし、24時間利用可能にすることで、メンテナンスをする時間もなくなります。そのため、どんなときでもトラブルが起きない「止まらない」ATMを作るということにこだわりました。
これだけでも大変なことですが、「超安全」を叶えるには、「止まらない」だけでは不十分です。強盗リスクなども考慮し、強靭な犯罪対策をすることも譲れない点でした。
また大前提として、コンビニの一角という限られたスペースに置ける必要がありました。しかし、当時の一般的なATMはサイズが大きく、とてもコンビニには置けなかったので、大きさの問題も必ず越えなければいけない壁になりましたね。
―本当に課題が山積みだったのですね
安斎:はい。計画当初は既存ATMのシステムを流用した開発が進められていましたが、コンビニに設置するには成立しないものでした。ソフトウェア、ハードウェアの両面に問題があったのです。そこで、思い切ってシステム会社との契約を切り、自社で1から開発することにしました。その時のリーダーが今の社長の松橋くんです(笑)。
当たり前だった機能を捨てる覚悟
―具体的にどのようなアイデアで乗り超えたのですか?
安斎:ATMの機能として、トラブルが発生しやすいものや、機械の中のスペースを取るものは捨てるという、当時のATM基準からしたら考えられないアイデアで作っていきました。硬貨の取扱い、紙幣の揃え、そして記帳の機能も捨てましたね。Webではなく紙の通帳が主流の時代に、記帳機能を削るというのは、かなり強気な判断だったと思います。常識を捨てる覚悟を持たなければ、新しいものを生み出せないと感じていましたね。
安心安全はもちろん、より使いやすく、より便利にご利用いただけるようATMを開発
世の中にないものをゼロから作る面白さと苦労
安斎:犯罪対策面も同時に進められ、ATM自体の耐久性に関しても、警察や金融団体の方と一緒に基準作りを行いました。例えば「ハンマーで叩いても、何分間はお金を奪われないようにする」などです。このとき策定した内容は、今も業界基準として運用いただいているものもあります。
また、コンビニのオーナー様や店員の方がATMのある店舗でも安心して働けるよう、お金の装填で協力いただいたセキュリティ会社さんと協力して防犯面の検討を重ねました。
とにかくどちらを向いても「新しいやり方を考えなければ」という状況でしたし、専門分野も前職もバラバラのメンバーが集まっていたので、毎日のように喧嘩をしながらプロジェクトを進めていました。
どんどんぶつかって、どんどん形にしていくというスタイル。しかも最初のうちは、倉庫のような何もない会議室からのスタートでしたから、今思えばベンチャー企業に近い状況でしたよ(笑)。世の中にないものをゼロから作る面白さ、苦労が全て詰まっていました。
2001年ATM 設置台数/一日あたりのご利用件数推移(残高照会は除く)
セブン銀行 ディスクロージャー誌2002より抜粋
「お客さまを喜ばせたい」。それ以上の原動力などない
―コンビニATMの設置にあたり困難な課題がたくさんあった中で、原動力となった想いは何でしょうか?
安斎:「お客さまを喜ばせたい」という想いが根底にあります。私は日銀で働いていた頃、先輩方から「国民のために働く」という姿勢を学びました。その信念は今でもずっと変わらず持ち続けています。
あの時はパーパスこそありませんでしたが、私が作った経営理念とも共通している考えです。「お客さまのあったらいいなを超える」「お客さまのニーズに的確に応え、信頼される銀行を目指す」その想い以上の原動力はないですね。
実は創業当初、その想いをさらに強くすることになったエピソードがあります。当時、駅前など人の行き来が多い店舗のみにATMを設置する計画だったのですが、「駅周辺には他の銀行もたくさんあるから、駅と逆方向のコンビニにある方が便利なのに……」と、一番身近なお客さまである妻から言われハッとしました。お客さまの立場に立って、本当に必要な「あったらいいな」を見つめなければ、お客さまを喜ばせられないと感じました。
―設立から約20年経ち、街中で多くのATMを使える時代になりました。この状況をどう思われますか?
安斎:セブン‐イレブンだけでなく、様々なコンビニ、スーパー、その他あらゆる場所にATMが置かれ、もう銀行に駆け込まなくてもよくなりましたね。ATM自体が新しい金融のインフラになれたのでは、と感じています。この世界を作るために、技術やノウハウを独占することなく、他社にも情報共有してきました。
会社は、自社の利益のためだけに動くようになったら終わりだと思っています。今でいうステークホルダー資本主義がまさに私の考え。一番大切なのはお客さまでそのために尽力していれば、事業を成り立たせることも、世界の当たり前を変えることもできると思っています。
安斎が考えた経営理念は現在も脈々と受け継がれている
―最後に一言お願いします。
安斎:今はセブン銀行の役員は退きましたが、社長の松橋くんをはじめ、同じ信念を持つ社員が日々がんばってくれています。これからも、いつでも安心・安全に、より快適に、そしてより新しい形のサービスを提供できるATMにするべく、セブン銀行ではサービス向上に取り組んでいきます。ぜひ今後もセブン銀行をみなさんの生活の一部として、ご活用いただけたら嬉しいです。
その想いを超え、日常のみらいへ。
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