Environment
― 環境

TCFD提言への対応

当社グループでは、地球温暖化は企業の持続可能性にも深刻な影響を及ぼすことから、気候関連リスクを重要な経営課題の一つと認識しております。2021年12月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明しており、2023年には気候関連リスクおよび機会を把握するため、当社の主力事業であるATMプラットフォーム事業を対象にシナリオ分析を実施しました。気候変動が自社の事業活動や収益等に与える影響を分析し、具体的な対策を講じるとともに、ステークホルダーへの情報開示を拡充しております。

ガバナンス

当社グループでは、「セブン&アイグループと連動した気候変動対応」を重点項目の一つとしており、「サステナビリティ委員会」において気候変動に関する重要事項を協議し、社会課題や環境問題の解決に向けた取組み状況の把握と併せて、サステナビリティ情報開示や外部評価の対応を行っております。
リスク管理に関する経営会議の諮問機関としては「リスク管理委員会」を設置しています。取締役会により毎年度決定される「リスク管理基本方針」に沿って、全社的なリスク管理方針、各種リスク管理方針およびリスク管理組織・体制が定められ、経営会議にてリスク管理に関する諸規定を定めるとともに、四半期ごとに全社的なリスク状況を確認しています。
経営会議では、その諮問機関である「サステナビリティ委員会」および「リスク管理委員会」で報告された重要項目に対して、その対応方針を決定するとともに、「サステナビリティ委員会」および「リスク管理委員会」を通して各部やグループ各社の対応進捗や目標の達成状況を監督し、適宜、方針・取組みの見直しを行っております。
一方、取締役会では、経営会議でのサステナビリティに関する議論を踏まえ、会社経営の視点で、サステナビリティに関する基本方針および業務運営における重要事項の決定並びに業務執行について監督しています。
気候関連リスクについても、こうした枠組みの中で、状況確認、対策検討、モニタリング等を行っています。

戦略

サステナビリティ委員会では、主力事業であるATMプラットフォーム事業を対象として、2022年3月期末時点の情報をもとに、2030年時点を想定したシナリオ分析を実施しました。その中で特に事業インパクトの大きいと想定される異常気象による物理的リスクに関しては、財務的インパクトを試算しています。

分析プロセス

分析プロセスについて

想定するシナリオの条件

気候変動のシナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書をベースとして2℃以下と4℃シナリオを想定し、それぞれの世界で当社ATM事業に与えるさまざまな要因を抽出し、財務的な影響を評価した上で、リスクと機会を特定しました。

シナリオ分析の前提

項目 2℃以下シナリオ 4℃シナリオ
参照
シナリオ
(2℃シナリオ) IEA Sustainable Development Scenario、IPCC RCP2.6 (1.5℃シナリオ) IEA Net Zero Emissions by 2050 (4℃シナリオ) IEA Stated Policies Scenario、IPCC RCP8.5
対象年 2030年時点
想定される
世界観
2100年時において、産業革命時期比で1.5℃未満の平均気温上昇が想定されるシナリオ。
カーボンニュートラル実現を目指し、気候変動問題を抑制するために現状以上の厳しい政策・法規制等が敷かれる。
2100年時において、産業革命時期比で3.2℃~5.4℃(約4℃)の平均気温上昇が想定されるシナリオ。
気候変動問題を軽減するための積極的な政策・法規制等は敷かれず、異常気象の激甚化が顕著に表れる。

気候関連のリスクと機会の特定

リスク・機会の
種類
評価項目 顕在時期 事業インパクト 財務的影響
4℃ 1.5℃
移行
リスク
政策・
法規制
資源循環に
関する規制
中期~長期 ● ATM機体に使用している化石燃料由来プラスチックの流通・使用が規制され、バイオプラスチック等の代替材料への転換が必要となる
● リサイクル可能な材料・構造への転換が必要となり、対応コストが増加する
市場の
変化
原材料
コストの変化
中期~長期 ● 原油価格の高騰により、ATM機体に使用している化石燃料由来プラスチックの価格が増加した場合、製造コストが増加する
エネルギー
コストの変化
中期~長期 ● 再生可能エネルギー需要の増加により、電力価格が上昇し、オフィスやデータセンターでの操業コストが増加する
● ガソリン代の高騰により、警送費等の費用が増加する
物理
リスク
急性 異常気象の
頻発・激甚化
短期~長期 ● 浸水によるATM不良、自然災害による現金輸送網の分断、ATM設置場所の営業停止による利用件数の減少など、主力事業であるATM事業の収益力が低下する
● 人々の外出機会の減少に伴う、ATM利用件数の減少により、収益が減少する
慢性 平均気温の上昇 短期~長期 ● オフィスや東西のデータセンターでの空調コストが増加する
機会 製品・
サービス
環境配慮意識の
高まり
中期~長期 ● 省エネ性能に優れたATMの切り替え、リサイクル可能なATMへの関心の高まりにより、当社ATMへの代替需要が増加する
● ATMネットワーク全体での気候変動への取組みが進み、持続可能な社会インフラとしてのATMへの需要が高まる
市場 平時・有事の
現金ニーズ
短期~長期 ● 気温上昇により、コンビニへの来店客数が増加し、ATM利用機会が増加する
● 災害発生時の適応策として、移動ATM車両派遣サービスの需要が増加する
● 災害発生時の現金ニーズが高まり利用件数が増加する

※短期:1年、中期:1年~5年、長期:5年~30年

財務インパクトの試算

また、シナリオ分析の結果、事業インパクトが大きいと評価された異常気象による当社設置ATMへの被害と影響については、ハザードマップから全国のATM設置場所で洪水・高潮の発生頻度や発生確率を割り出し、被害を受けた場合のATM実機の損害についてATM復旧費用および稼働停止による損失を算出し、財務インパクトを試算しました。

前提条件 試算項目 試算結果
(単位:百万円/年)
2030年時点の4℃シナリオおよび2℃以下シナリオの両シナリオにおいて、異常気象の激甚化に伴い、洪水・高潮による物理的被害が増加。自社ATMは全国に多く展開しており、洪水・高潮の発生増加により、財務的な影響を大きく受けることが想定された。 治水経済調査マニュアル(国交省)などを参考に以下項目を試算した。
● 浸水によるATM資産への被害
● ATM復旧費用
● ATM営業停止による損失額
  • 想定される浸水深などの被害情報は、ハザードマップにてATM設置箇所ごとに特定。
  • 洪水・高潮発生時の想定被害額に年超過確率を乗じて、年平均の被害額を算出。
  • 未考慮事項:現金への影響(現金は紛失しないと想定)
805~1,408

当社の主な取組みについて

気候関連のリスクおよび機会に対応し、当社グループでは脱炭素社会の実現に向けたさまざまな取組みを行っています。

リスク

リスクの種類 評価項目 主な取組み
移行
リスク
政策・
法規制
資源循環に
関する規制
既存ATMの対応策
● ATMは設計段階から、リサイクル素材の導入やメンテナンスしやすい構造などを積極的に採用しています。不具合が起きた場合は、パーツごとの取替えやメンテナンスを行い、長く使えるような工夫も取り入れています。
● セブン‐イレブン店舗の改装・閉店や、第4世代ATMへの入替えに伴い撤去・回収したATMは、再利用可能な機体であればメンテナンスを行ってリユースするほか、パーツ単位でも再利用を行います。
● 再利用ができない古くなったATMは、リサイクル業者を通じて再資源化し、リサイクル率約100%を達成しています。
次世代ATMの対応策
● 次世代のATM検討に向けては、新素材の発掘やリサイクル素材の研究・開発を視野に入れて産学連携などの取組みを進めています。
市場の
変化
原材料
コストの変化
エネルギー
コストの変化
● ATM内の現金を適正なレベルに維持するために、現在ではAIを活用して、ATMの利用状況を1台ごとに分析し、資金需要のタイミングを予測しています。その情報をベースに警送会社と協働で最適な現金輸送のルートおよび回数を確定し、輸送時のエネルギー使用量および排出されるCO2にも配慮した効率運用を実現しています。
● 2022年には再生可能エネルギーだけで使用電力を調達しているデータセンターおよび持続可能に配慮したクラウドを併用し、2025年にはデータセンターのCO2排出量の完全ゼロ化を目指し、将来的なエネルギーコストの変化にも対応しています。
物理
リスク
急性 異常気象の
頻発・激甚化
● 従来システム拠点を東西に分散させることで業務継続可能な態勢を構築しておりましたが、2021年に大部分の基幹システムをクラウドに移行、事業パートナーと連携しながら、システムの二重化や東西交互運用を継続するとともに、災害時においても、障害部位の迅速な切り離し対応やリモート保守環境の強化など障害時の早期復旧対策も強化しています。
● ATM本体にUPS(無停電電源装置)を搭載して災害による停電に備える等の対策を講じています。
● セブン‐イレブンとは、自然災害による被害を最小限にするため、災害発生エリアの店舗統括部署と事前に連携するとともに店舗の情報共有の仕組み「7VIEW」を活用してリアルタイムに状況を把握し、早期対応を図る仕組みを構築しています。
慢性 平均気温の上昇 ● オフィスの服装をカジュアル化し、冷暖房機器の電力削減を推進しています。

機会

機会の種類 評価項目 主な取組み
機会 製品・
サービス
環境配慮意識の
高まり
● 2019年にリリースした第4世代ATMは、お客さまや社会のニーズにより幅広く応えるため、機能や性能アップにとどまらず、社会・環境への貢献を高めることを開発当初から目指しました。ATMの回路設計の見直しや各部品を徹底して低消費電力のものを採用するなど、事業パートナーと協働して取組み、消費電力の40%削減に成功しました。現在、第4世代ATMは日本全国で順次導入を進めており、第3世代ATMから切り替わることでCO2排出量の削減につながっています。
市場 平時・有事の
現金ニーズ
● 自然災害による銀行店舗およびATMの被害を最小限にするため、金融機関からのATM代替が増加することも想定し、社会インフラとしてのATMサービスの拡充に努めています。
● 大規模災害でATMが広範囲に渡って稼働できない場合には、移動ATM車両を派遣し決済インフラの提供を通じた地域支援に取組みます。

リスク管理

当社グループでは、気候関連リスクについて「リスク管理基本方針」内の統合的リスク管理方針として、リスク評価結果・モニタリングを通じて外部・内部環境の変化に即応した機動性の高いリスク管理を実践することを定めており、全社的なリスク管理体制の中で気候関連リスクを把握・管理するプロセスに組み込まれています。
一方、機会については、「サステナビリティ委員会」にて、今まで重点課題の一つであった「環境負荷の低減」について各事業部での取組状況を定期的にヒアリングしており、環境に配慮したATMのさらなる取組みについて関連部署との連携を強化しております。また、ATM事業に関わる事業パートナーとも連携して、サステナブルなATMネットワークの構築についても議論を始めております。

指標および目標

セブン銀行は、セブン&アイグループの環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」で掲げた「店舗運営に伴うCO2排出量実質ゼロ」という目標の達成に向けて環境負荷低減活動に積極的に取組んでおり、環境負荷を定量的に把握するため、年度ごとにCO2排出量を算出しています。セブン銀行単体のオフィス4拠点およびATM直営店3拠点のCO2排出量は右のとおりです。
今後は連結子会社まで対象範囲を拡大することを視野に入れ、さらにScope3についても事業パートナーとの連携を強化し、ATMネットワーク全体でのCO2削減の取組みへと進展させていく予定です。

[対象範囲]
● オフィス4拠点:東京都千代田区、東京都墨田区、神奈川県横浜市、大阪府豊中市
● ATM直営店3拠点:東京都新宿区、東京都港区、大阪府大阪市

(単位:t‑CO2)

  2020 2021 2022
Scope1+2 他社から供給された間接排出量/電気/熱などの利用 638 596 663※1
Scope3 カテゴリー1、5、6、7、12、13、その他※2 20,630 17,293 17,787

※1 2022年度より蒸気・温水・冷水のCO2排出量を加算
※2 その他として主に「社員の家庭での電力使用による排出」を加算