トップメッセージTop Message

中期経営計画達成に向け、収益基盤の強化を継続。
将来を見据えたビジネスモデルへの変革を推進します。

パーパスの定着からさらなる深化へ

株式会社セブン銀行代表取締役社長

松橋正明

当社が『お客さまの「あったらいいな」を超えて、日常の未来を生みだし続ける。』というパーパスを掲げたのは、3年前の2021年です。第二創業期を迎え、事業の多角化を進めると同時に、既存事業にも見直しを加え、さらに強化していこうという時期でした。そのようなタイミングで、もう一度社員の方向性をきっちりと揃えたいという思いが、パーパス策定の背景です。

『「あったらいいな」を超えて』という表現には、常識や既成概念に捉われず、世界初・日本初・業界初を目指してお客さまの想いを形にすることを、「生みだし続ける」には、お客さまの新しい日常を創り出すためにチャレンジを続けることの大切さを込めました。会社も事業も、ともに成長していくためには、継続的なチャレンジと、それによるイノベーションが必要です。パーパスの実現に向けて小さな成功を積み上げていくことで、社会課題を解決し、これまで想像できなかったような新たな世界が生み出されることを期待しました。

パーパスの策定後は、それぞれの職場、あるいは社員一人ひとりが、パーパスを「自分ごと」化してもらえるよう努めました。私自身もタウンホールミーティング等を通じて多くの社員と直接言葉を交わす中で、一人ひとりがそれぞれ熱い想いを持って業務に邁進してくれていることを実感できました。事務部門では、業務のDX化を推進しようとする動きが自発的に出てきましたし、営業部門もただ商品を販売するだけでなく、事業パートナーとしてお客さまの困りごとを発掘し、解決するコンサルティングのような仕事へと進化しつつあります。パーパスを各自の業務に紐づけることで、自身の存在価値を認識し、より高みを目指すようになってくれたと感じています。

次のステップとして今、重視しているのは、パーパスを実現するための考え方やアプローチをさらにブラッシュアップしていくことです。その一例として、「常識を疑う」、こだわりを捨てて新たに学び直すことを促す「Unlearn Relearn」など6つの行動規範を明示し、社内での徹底を図っています。これらの行動規範を、セブン-イレブンから受け継いだ、「お客さまの立場で考え、新たな挑戦を続ける」というDNAと結びつけることで、パーパス経営をさらに深化させていきたいと考えています。

2023年度の振返りと次期の見通し

2023年度は、2023年7月のセブン・カードサービスの連結子会社化によって、連結経常収益は前期比27.6%増の大幅増収、連結経常利益も前期比5.5%の増益となりました。セブン銀行単体でも、旺盛な資金需要によるATM利用件数の伸長などを受けて経常収益は過去最高となりましたが、新型ATM入替に伴う投資増や新紙幣対応のための費用増などによって経常利益は減益となりました。

2024年度の業績については、連結・単体ともに経常収益は増加を見込むものの、経常利益は減益を予想しています。セブン銀行単体はATM利用件数の増加によって増収を見込み、セブン・カードサービスの業績も収益面で貢献すると想定しています。一方で新型ATM入替に伴う減価償却費がピークとなるほか、将来の成長に向けた投資が続くことが、減益の要因となります。

今後の事業戦略

今後の成長戦略の柱になるのは、やはりATMプラットフォーム戦略です。当社のATM事業の強さは、常に顧客志向・ゼロベースで機能やサービスを構築し続けてきたことと、全てITで再編し続けてきた点にあると考えています。既存のATMの要素を徹底的に分解し、お客さまの視点で新たなサービスや機能などを取り入れる一方、不要になった機能は取り除き、常に時代の先を読みながら新世代のATMを世に送り出してきました。

先を読み、大胆に投資をするというのはとても大切なことで、例えば2019年から投入した第4世代ATMに搭載している「+(plus)エリア」は、2016年の構想段階から、マイナンバーカードへの対応を含め、本人確認機能、デジタルセーフティの確保、行政機能の代替などを想定していました。

新紙幣への対応についても、全国27,000台以上のATMをソフトウェアだけで対応できるように設計しました。こうした先行投資が、2023年9月に開始した「+Connect(プラスコネクト)」に活きてくるわけです。「+Connect」は、従来の現金決済プラットフォームとしてのATMから脱却し、本人確認書類読取機能や顔認証機能などを組み合わせ、新たなサービスと顧客体験を提供する事業構想です。

短期的には、これまで金融機関が窓口で提供してきた各種手続きなどのサービスを中心に、長期的には、自治体など行政機関の窓口を含め、これまで対面で行われていたあらゆる手続きや認証を、ATMを使ってワンストップで提供できるようにしていきたいと考えています。

リテール事業においては、セブン&アイグループの共通会員基盤「7iD」を活用し、シナジー効果の最大化を目指します。「7iD」には現在、3,000万人以上の会員がいます。この一人ひとりの小売りの購買データと、銀行口座やクレジットカード、電子マネーなどの金融データを連携させることで、デジタルマーケティングや与信に活用するほか、新たな金融サービスの開発にもつながると考えています。2023年7月に統合したセブン・カードサービスとともに、小売×金融の特性を活かしたユニークな商品性をもつ新しいクレジットカードの発行を計画しています。

海外事業については、当社の成長ドライバーと位置づけており、米国、インドネシア、フィリピンの既存3カ国に加え、5月には新たな進出国としてマレーシアへ現地法人を設立しました。米国では7-Eleven, Inc.との契約を更改し、2025年からのSpeedwayへの3,000台の新規設置を含め、約11,600台規模のATMネットワークを構築していきます。インドネシア、フィリピンでの事業も好調に推移しています。インドネシアでは、ATMの設置台数が8,000台規模まで拡大しました。フィリピンでは、現地のセブン-イレブンへの設置が完了し、次の段階として現地スーパーマーケットへの設置を進める計画です。いずれの国においても、ATMを媒介とした新たな金融サービスの開発を進めており、いわゆるATM運営会社から、小売りと連携した金融サービス提供会社にトランスフォームしようとしているところです。

「+Connect」戦略を推進し、あらゆる手続き・認証をATMで提供する新たなプラットフォーマーへと生まれ変わります。

人財の活用とDX戦略

当社では“人材”ではなく“人財”と呼んでいますが、やはりこの人財こそが、当社の競争力の源泉であり、パーパスを実現するための唯一無二の主人公です。私が人財育成において最も重視しているのが、変化を掴み、イマジネーションを働かせ、新しいものを生み出す力を磨くことです。そのためには、一つ一つの仕事や課題をきっちりとやり切ること、そしてそれを通じて各自が自己成長を果たし、次のチャレンジに向かっていくことが一番の近道だと思います。私はこうした企業カルチャーを醸成することが、人財戦略の基本だと考えています。

当社は経営理念の一つに、「社員一人一人が、技術革新の成果をスピーディーに取り入れ、自己変革に取組んでいきます。」を掲げています。そのため、すべての社員がテクノロジーを活用し、ビジネスに活かすためのさまざまなプログラムを用意しています。例えばデータを活用したビジネスモデル・プロセス変革を目指す「データマネジメントオフィス(DMO)」が運営するコミュニティには、社員のほぼ半分に当たる330名以上が参加していますし、各々のスキルに応じて受講できる「データサイエンスプログラム」や「市民開発アプリ研修」にも、多くの社員が自らの意思で参加し、実際の業務で成果を出してくれています。

これからの時代、あらゆる業務でAIやデータ活用が求められます。当社の成長においてもDX化は不可欠です。全社的にデジタルツールを使える環境、事業領域に関わらずチャレンジできる機会、さらに伴走してくれるサポート要員を用意し、社内のDX化を推進しています。また、人事制度の面では、ITをはじめとする専門領域の人財育成に特化するスペシャリスト制度を設け、より活躍しやすく、報酬面でも報いられる形をスタートしました。こうした仕組みをたくさん並走させることによって、社員が楽しみながら、ITスキルを習得し、新たな取組みに積極的にチャレンジしてくれる風土が育ちはじめていると実感しています。

サステナビリティへの取組み

当社は創業当初から「サステナビリティ」という言葉こそ使っていませんでしたが、社会・環境への価値追求と事業活動の両立を掲げ、企業活動を行ってきました。そして、2021年のパーパスの策定によって、当社は何のために存在するのか、我々が最も大切にすべき価値観は何か、ということがより明確になりました。現在では、サステナビリティを長期的な経営戦略の根幹として位置づけ、5つの重点課題に沿って、本業を通じた社会課題・環境問題への取組みを加速させています。

ATM事業では、近所のコンビニで24時間365日いつでも使える、という利便性に加え、大きな画面とシンプルな操作、強固なセキュリティによって年代や国籍に関わらずどんな方にも使いやすいサービスを提供していくことも、社会課題解決の一端を担えると考えています。

さらに今後は、金融機関や行政機関などの窓口業務を代替していくなど、利便性や操作性だけでなくあらゆる業務を効率化していくことで、より社会に貢献できるようになると考えています。

地球環境への取組みについても、我々のATMが銀行業務や行政のDX化に貢献することで、ペーパーレス化を推進することができますし、現金輸送時の物流の効率化などを通じて、温室効果ガスの排出抑制にもつなげようとしています。一方でまだまだ課題も残っていると考えており、例えば障がい者の方や外国人居住者の方などでも使いやすい装置、サービスの開発などにも取組まねばなりません。

これからは「社会で最もやさしいデジタルチャネル」であると同時に、「地球に最も優しいATMネットワーク」を目指し、サステナビリティの推進に注力していきます。

率先垂範と勉強し続ける姿勢で社員を引っ張り、イノベーションを起こし続けます。

リーダーとして大切にしている姿勢、価値観

私はトップとして、何よりも率先垂範を心がけています。新しいことをやろうとするときには、自分が真っ先に飛び込み、意欲をもってついてきた人たちとともに動くようにしています。新規ビジネスのスタート時や他社とのコラボレーションでもそのようなアプローチで新規事業を推進する「セブン・ラボ」という部署を立ち上げました。また、AI活用やデータサイエンスについても、自らその領域に入ってチームとともにチャレンジしてコーポレート・トランスフォーメーション(CX)組織を作りました。もう一つ大事にしていることは、学び続けることです。お客さまの「あったらいいな」を超えるには、自分自身のスキルや知識を常にアップデートし続けていかないと変化のスピードに追い付けず、お客さまの期待を超えるサービスを生みだすことはできません。今、プライベートの時間で生成AIを使った画像編集にチャレンジしています。これからの時代を考えると、自身が生成AIへ適合し、自己変革する必要性を感じるため、まずはプライベートでチャレンジ中です。オープンでフラットな立場でいることや、積極的に情報発信をしていくことも心がけています。そのような姿勢を見せつつ、全社朝礼やタウンホールミーティングなどを通じて社員と常に対話しています。

私のこれまでの経験では、反対する人が多いプロジェクトほど成功しています。多様な意見が出るからこそ、仲間たちと議論しながら一緒に障害や困難を乗り越えてこられたと思っていますし今後もそれによってイノベーションを起こし続けたいと考えています。

あらゆる窓口業務をすべてカバーしようという「+Connect」戦略もそうですが、私はいつも大きな夢を描くようにしています。しかし大事なのは、一つ一つのステップを着実に実行することです。小さな成功体験の積み重ねが個人の自信につながり、個々の業務のレベルアップがさらなる事業の発展につながっていきます。セブン銀行グループが一丸となり、一つずつ着実に、パーパスの実現に向けて挑戦していきたいと考えています。そして、数年後には、「あの会社、かつては銀行だったんだよ」と言われるくらいにイノベーティブな存在になりたいと考えています。